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Kiraku 映画論評

『コンドル』~第四次中東戦争でのCIAの暗躍を示唆している~


2011年12月23日 08時42分 配信Ic_star44

『コンドル』は高倉健、ロバート・ミッチャム主演の『ザ・ヤクザ』(74年)に続くシドニー・ポラック監督の75年の作品。突然仲間が皆殺しにされたCIA(アメリカ中央情報局)職員の奮闘を描いたアクション・サスペンス作品で、ジェイムズ・グレイディの小説「コンドルの六日間」を原作としている。原題は"Three Days of the Condor(コンドルの三日間)"で時間の関係だろうが映画は小説に比べて半分の三日間を描いている。

CIAといえば現在では世界をまたにかけて陰謀を繰り広げる組織というダーティーなイメージが確立しているが、そうしたイメージが決定的になったのがニクソン大統領を辞任に追いやったウォーターゲート事件だ。72年に民主党本部を盗聴した男が元CIA職員であり共和党のニクソン大統領がFBIによる調査をCIAによりもみ消そうとしたことなどがワシントン・ポストの二人の記者による取材で発覚、74年には遂にニクソン大統領が現役大統領として初めて辞任に追い込まれた。このワシントン・ポストの二人の記者の活躍を描いたのが『大統領の陰謀』で76年に公開された。これ以降CIAのダーティーなイメージが浸透していくこととなる。この『コンドル』の公開はニクソン大統領が辞任直後の75年であり、CIAの暗部を初めて描くことができたのもそのためだろう。

主人公のコードネームがコンドルのCIA職員を演じるのが監督のシドニー・ポラックとは『雨のニューオリンズ』(66年)、『大いなる勇者』(72年)、 『追憶 』(73年)に続く共作となったロバート・レッドフォード。ポール・ニューマンと組んだアメリカン・ニューシネマの傑作西部劇『明日に向って撃て!』(69年)で一躍スターダムに昇り、再びニューマン、ヒルと組んだ大ヒット作『スティング』(73年)、バーブラ・ストライザンドのテーマ曲も大ヒットしたストライザンド共演のラブ・ロマンス『追憶 』(73年)、フィッツジェラルドの名作の映画化『華麗なるギャツビー 』(74年)などで当時のアメリカで最も人気のあるイケメン俳優だった。この『コンドル』でCIAの暗躍と戦うCIA職員を熱演、76年には上記の『大統領の陰謀』でダスティン・ホフマンと共にウォーターゲート事件を暴いた二人の記者を演ずることとなる。コンドルの人質となるが愛し合うキャシーを演じたのがフェイ・ダナウェイ。『俺たちに明日はない』(67年)で女ギャング、ボニーを演じアカデミー主演女優賞にノミネートされ一気にスターダムを駆け上って以来、ティーブ・マックイーン共演の『華麗なる賭け』(68年)、マルチェロ・マストロヤンニ共演の『恋人たちの場所』(69年)、再びアカデミー主演女優賞にノミネートされたジャック・ニコルソン共演の探偵映画の傑作『チャイナタウン』(74年)、『タワーリング・インフェルノ』(74年)などで人気・美貌・演技力と三拍子そろった当時のアメリカを代表する女優へと成長を果たしていた。『コンドル』では生きる気力を失っていたが中に熱い情熱を秘める女性を見事に演じていた。翌76年には『ネットワーク』でアカデミー主演女優賞を受賞することとなる。殺し屋ジョベアを演ずるのがマックス・フォン・シドー。『第七の封印』(56年)、『処女の泉』(60年)などのイングマール・ベルイマン監督作品の常連として知られる名優で、イエスを演じたイエス・キリストの生涯を再現した史劇『偉大な生涯の物語』(65年)以来、ハリウッドでも活躍をしていた。この『コンドル』でもコンドルを追い詰める不気味な殺し屋を独特の雰囲気で演じ、流石の存在感を見せている。

ネタバレなしの途中までのストーリーはクリスマス・シーズンのニューヨークで始まる。ターナー(ロバー ト・レッド・フォード)はいつものように愛車のオートバイでアメリカ文学史協会にジーンズ姿で出社した。このアメリカ文学史協会はCIA(アメリカ中 央情報局)の末端の下部組織でCIA情報部員としてのターナーの任務は「読み屋」と呼ばれ、世界中から収集されたミステリー関係の小説・雑誌類を解読し、コンピューターにインプットすることだった。昼食前にター ナーは昼食の買出しのために裏口からオフィスを出ていったが、その後の午前11時30分に3人の男が乱入し、スタッフを皆殺 しにした。ターナーが戻ると同僚の残惨死体だけが残されていた。ターナーは公衆電話からCIAの緊急連絡本部に電話しコードネームの“コンドル"を名乗った。報告を受けたCIAではニューヨーク支部長ヒギンズ(クリフ・ロバートソン)が調査にあたることに なり、指定した場所にターナーの友人サムを送ったが、ワシントンの情報部に属するウィクスも同行することになった。指定された場所にやってきたターナーにサムが駆け寄ろうとすると、ウィクスがターナーめがけて発砲、ターナーはも発砲し弾はウィクスの右脚に命中したが、ウィクスは倒れながらサムを射殺した。ターナーは訳が分からないまま逃げ、通りすがりのキャシー(フェイ・ダナウェイ)を拳銃でおどし、キャシーのアパートに身を隠すことにした。その頃ワシントンではCIAの幹部会議が招集され、作戦部長ワバシュ、副部長アトウッドらがニューヨークから呼びよせたヒギンズから事情聴取していた。末端組織にすぎないアメリカ文学史協会がなぜ狙われたのか?その夜、アトウッドは協会襲撃のリーダーだった元CIAの殺し屋ジョベア (マックス・フォン・シドー)と会い、負傷したウィクスとコンドルを消すことを命令するのだった....。

興味深いのがコンドルが事件に巻き込まれたのはアトウッドらによる仮想石油戦争だったということだ。73年の第一次オイル・ショックはエジプト、シリアを中心とするアラブ諸国軍とイスラエルによる第四次中東戦争が勃発してOPECが石油価格を70%引き上げたことが引き金となった。石油輸入国である日本では経済へのダメージは大きくトイレットペーパーの買占め騒動などが起こるなど大変な騒ぎとなったわけだが、産油国であるアメリカにとっては石油価格の高騰により採掘価格が高いため掘っても赤字だった自国の石油が黒字に転換するため経済的にはメリットがあった。そのためCIAがイスラエルとアラブ諸国を陰で操り第四次中東戦争を引き起こし、OPECの価格引き上げにつなげたという説があったわけだ。ニクソン大統領が権力を握っていた73年にはこうした声は裏で囁かれるだけだったが、ニクソンの辞任により風向きが変わりこの『コンドル』に登場させることができたということなのだろう。そしてニクソンと同じ共和党で産油地帯であるテキサス州出身のブッシュ大統領が03年にイラク戦争に踏み切るわけだが、戦争の目的はイラクの石油利権であると囁かれていた。さらにイラク戦争開始の根拠とされたのはCIAが調べたとされるイラクの大量破壊兵器の存在だったが、04年には「イラクに大量破壊兵器は存在しない」との最終報告が提出されたのはご存知の通りだ。

こうして見ると73年と03年の中東での戦争はどちらも石油がらみでCIAが暗躍していたという見方もまんざら嘘とは決めつけられないと思えてくる。

こうしたいかにもありえると思わせる石油がらみのCIAの謀略により惨殺事件が起き、それまで普通のサラリーマンのような生活を行っていたジョベアに言わせるとアマチュアのスパイがプロのスパイとの闘いに巻き込まれていくというリアルなストーリーは今見ても非常に新鮮だ。絶対に死なない勧善懲悪のヒーローが活躍する007シリーズのようなおとぎ話とは異なり、大人向けのサスペンス・アクションといえるだろう。当時人気絶頂のロバート・レッドフォードのかっこよさ、レイバンのティア・ドロップ型のサングラス、ジーンズ、ピーコートなどのファッションも少しも古臭くない。単なるアクション・サスペンスとして見てもあっという間に2時間が過ぎてしまう秀作といえるだろう。

最終更新:2011年12月23日 01時51分

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