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Kiraku 映画論評

『ブラック・ダリア』~まぶしいほどの光の中には影がひそんでいること、人間には闇の部分があることを教えてくれている~


2012年1月13日 08時32分 配信Ic_star44

『ブラック・ダリア』は迷宮入りした1947年の実際に起きた猟奇殺人事件であるブラック・ダリア事件をモチーフとしたジェイムズ・エルロイの同名小説を映画化したブライアン・デ・パルマ監督による06年の大ヒットサスペンス作品。ジェイムズ・エルロイといえばケヴィン・スペイシー、 ラッセル・クロウ主演で映画化された『L.A.コンフィデンシャル』(97年)の作者としても知られるが共に「暗黒のL.A.」4部作の一つで、「L.A.コンフィデンシャル」が(90年) が第3部でこの「ブラック・ダリア」(87年) が第1部となっている。「ブラック・ダリア」は10歳の時に母を惨殺されたが迷宮いりとなったエルロイの想いがこもった処女作であり、『L.A.コンフィデンシャル』同様エルロイらしい人間の持つ闇を描いた作品となっている。

監督のブライアン・デ・パルマはシャム双生児をモチーフにしたホラー『悪魔のシスター』(73年)、『オペラ座の怪人』などをモチーフにしたロックミュージカル『ファントム・オブ・パラダイス』(74年)、スティーブン・キング原作の学園ホラーの傑作『キャリー』(76年)、ヒッチコックの『サイコ』へのオマージュである『殺しのドレス』(80年)など多くのホラーサスペンスをてがけてきた。エルロイと・デ・パルマの才能が融合した名作スリラーとなっている。40年代のL.A.(ロサンゼルス)を再現した作品の持つ質感が素晴らしく、かつてのハードボイルド作品を現代に甦らせたともいえ、ボギー主演の往年の名作のファンにもおすすめできる作品といえよう。フィリップ・マーロウが活躍するレイモンド・チャンドラーの傑作ハードボイルド作品「ロング・グッドバイ」を映画化したアルトマン監督による73年の同名映画の撮影も担当したヴィルモス・ジグモンドが撮影にあたっていると聞けば納得がいくだろう。

主人公の刑事バッキーを演じたのがジョシュ・ハートネット。太平洋戦争の真珠湾攻撃を背景としたベン・アフレック、ケイト・ベッキンセル共演の恋愛映画『パール・ハーバー』(01年)、ソマリア内戦での米軍特殊部隊の活躍を描いた『ブラックホーク・ダウン』(01年)で若手スターとして期待されていたイケメン俳優だ。『ブラック・ダリア』でも寡黙で、繊細な心を持つ純粋で善良なバッキー役をまさにはまり役で演じていた。バッキーの相棒である刑事リーを演じたのがアーロン・エッカート。00年にジュリア・ロバーツがオスカーを獲得した大ヒット作『エリン・ブロコビッチ』でロバーツの恋人役を演じ注目され、地球の核(コア)の回転が止まってしまうというヒラリー・スワンク共演のパニックSF『ザ・コア』(03年)、タバコは健康に悪くないと世間に信じさせるために奮闘する男を演じゴールデングローブ主演男優賞にノミネートされた『サンキュー・スモーキング』(06年)などで人気急上昇中だった。若き日のカーク・ダグラスとデ・パルマに評されたその魅力で、男らしいタフガイだが同棲相手を愛する優しい心を持つリーを見事に演じ、強烈な印象を残している。リーの同棲相手ヒロインのケイを演じたのがスカーレット・ヨハンソン。美しくセクシーなだけではなく、純粋な心を持つモデルの少女を演じた『真珠の耳飾りの少女』(03年)、英国アカデミー賞主演女優賞を受賞した『ロスト・イン・トランスレーション』(03年)、感情の起伏の激しいヒロインを熱演した『マッチポイント』(05年)など様々な女性像を演じきる才能には目を見張るものがある。かつてローレン・バコールが演じたようなケイ役を演じられるのはヨハンソン以外にはなかったのかもしれない。暗い過去を持つ孤独で、純粋な、男が守りたくなる女性像を弱冠21才ながら見事に演じている。そして性同一性障害の主人公を熱演した『ボーイズ・ドント・クライ(99年)と老トレーナーと女性ボクサーの友情と尊厳死問題を扱ったクリント・イーストウッ共演・監督の名作『ミリオンダラー・ベイビー』(05年)で2度もアカデミーなどの主演女優賞を総なめにした名女優ヒラリー・スワンクが事件の鍵を握るファム・ファタールである富豪の娘マデリンを堂々の貫禄で演じている。レズビアン・バーのシーンでアメリカではレズビアンとして知られる日本でもアルバム『アンジャニュウ』(92年)が音楽好きの間で話題となったk.d.ラングが素晴らしい歌声を聞かせてくれているのもファンにはうれしい。

ネタバレなしの途中までのストーリーは第二次大戦直後の1946年のロサンジェルスで始まる。かつてボクサーだった二人の警官、ジュニアはライトヘビー級の花形ボクサーだったバッキー(ジョシュ・ハートネット)とヘビー級のボクサーだったリー(アーロン・エッカート)はロサンジェルス市警のPRのため勝てば特捜課への転属をかけてボクシ ング試合を行った。試合はリーが勝利したがバッキーも警察の公債発行が認められた功績でリーと共に特捜課に配属され、ミスター・アイスとミスター・ファイアーとして名物コンビとなった。リーの同棲相手のケイ(スカーレット・ヨハンソン)も交え3人は実生活でも友情を深めていった。そんなある指名手配中の凶悪犯を追っていた二人は銃撃戦に巻き込まれ、バッキーはリーに助けられたが、情報屋のフィッチは射殺された。さらにその直後に腰から切断され、口を耳まで切り裂かれた若い女の惨殺死体が発見された。被害者は女優を夢見てハリウッドにやってきたエリザベス・ショートでいつも黒いドレスを着ていた彼女の事件を「ブラック・ダリア事件」 と呼ぶほど世間の関心を集めていった。リーは殺人課にバッキーとともに転属してまでこの事件にのめりこんでいった。一方バッキーは手がかりを求めて行ったレズビアン・バーでエリザベスそっくりの扮装をしたマデリン(ヒラリー・スワンク)と知り合い関係をもった。マデリンの父はハリウッドの土地開発で財産を築いたエメット・リンスコットという大物だった。そんな時かつてリーが逮捕した、ケイの体と心に深い傷を負わせた強盗犯デウィットが出所することになった。情報屋のモリーのビルでデウィットが麻薬取引をするという話を聞いたリーは単独ビルに向かい、バッキーがかけつけデウィットを痛めつけていると階上で何者かに首を絞められるリーの姿があった。呆然とたちすくむバッキーの前でリーは突然現れたもう一人の男に首を切られ、リーと首を絞めていた男は共に階下に転落した...。

バッキーはミスター・アイスと呼ばれるクールな性格だが自分と正反対の熱い心を持つミスター・ファイアーと呼ばれるリーへの友情を深めていく。そしてその同棲相手であるケイには愛情も覚えていく。二人に囲まれて幸せだったバッキーだが、デウィットが出所するという話を聞いてからリーは動揺を始めケイは恐怖心を見せ始める。何か隠された秘密の匂いをかぎとるバッキーが見つけたのはリーとケイが持つ隠された闇の部分だった。あまりに幸せな状態は長くは続かず、あまりに輝くような光には対照的な影の部分があることを想起させてくれる。あまりにうますぎる話には裏があるのと同じことだ。

リーが首を絞められている時にバッキーには銃を撃って威嚇するとか、リーの死を防ぐ手立ては何かしらあったはずだ。しかし以前リーに命を助けられたのにも関わらず、何もしないでたちすくむだけだった。ケイへの愛とリーが死ねばケイが手に入るという考えが一瞬よぎり、行動を遅くさせたというのが理由だろう。ケイの前で自分は何もできなかったと号泣するバッキーだったがケイに慰められると....。純粋で、善良なキャラクターとして描かれているバッキーでさえこうした卑劣な行動にでてしまう。人間の弱さと善人でさえ闇の部分を持つという事実を見事に描き出したといえるだろう。しかし愛するべき人、守るべき人はだれかということをバッキーが見出すことができたという結末には、人間が持っているのは闇だけでなく光ももちろんあるということを示唆していて、光明もみられる。ダークなだけな作品とはなっていないのが救いだ。

ストーリーと人間関係が複雑にからみあい難解になっているのは、2時間という時間にまとめたことでいたし方ないといえるだろう。この欠点を除き、作品の持つ質感、最後まで犯人が分からない巧みなストーリーテリング、役者陣の高い演技力などを鑑みると現代の名作フィルムノワールと呼べるのではないだろうか?

最終更新:2012年1月11日 22時37分

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