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Kiraku 映画論評

『サイドウェイ』~現実にはありえない男性の思い描く理想の女性像を見事に描いた~


2011年7月5日 09時17分 配信Ic_star55

『サイドウェイ』は『アバウト・シュミット』などで知られるアレクサンダー・ペイン監督の05年の作品。小日向文世、鈴木京香主演で『サイドウェイズ』として日本でリメイクされた名作だ。低予算の作品であるのに、ゴールデングローブ賞、ニューヨーク、ロサンゼルス、ボストン、シカゴなど多くの都市の映画批評家協会賞の作品賞を総なめにした作品だ。『サイドウェイ』はアメリカ人に愛されるべき映画の特徴を洗い出し、それをすべて計算ずくで実現させたと考えさせられるほどに、あらゆる成功要素が詰まっている。その成功の要素とは、1.スーパーマンのようなヒーローでなく、多くの人が感情移入できる、さえない、人生の落伍者が主人公である2.いい奴だけど駄目な主人公と、悪い奴だけどもてる親友との誰もがうらやむ固い友情を描いた3.ネガティブ思考の、頼りない主人公が、ポジティブ思考、力強い人物へと変わっていく点4.美しく、知的なヒロインの存在と、5.そのヒロインとわれらのさえないヒーローとのハッピーエンド、6.アメリカ人にとって最も欠かせない笑いはたっぷり、7.3人の主要な登場人物が、その性格設定も、役者の演技も、すべてが素晴らしい。これ以上に何が必要だといえようか?

まず主人公のマイルス(ポール・ジアマッティ)だが、スーパーマンどころか、これほど情けない主人公も珍しい。2年前に分かれた妻への未練が捨てがたく、彼女の再婚話を旅の伴侶の親友ジャックに告げられると、ショックで錯乱し、ワインをラッパ飲みしながら坂を駆け下りるシーンは、本当におかしくて、いつまでも、いつまでも笑える名シーンだ。その夜の、ジャックがアレンジしてくれた、ずっと以前から気に入っているワインに造詣の深い美しいマヤ(ヴァージニア・マドセン)との4人での飲み会。しかも彼女はマイルスに気があり、離婚したことまで分かっている。離婚後初めての、素晴らしい出会いのチャンスだ(持つべきものは友だ)。この最中にも目の前の美しいマヤのことよりも別れた妻のことが気にかかり、食事中席を立つと妻に電話をかけ、おめでとうというどころか、どんどん絡んでいき、墓穴を掘っていく。その後席に戻るとワインをがぶ飲みし、むせ返る酔っ払いのマイルス。本当に情けなくて、目をおおいたくなるシーンだ。その後のマヤの友人ステファニー家での2次会で、バルコニーでワイン論を語り合う二人。「ピノ・ノワールは扱いが難しい、しかしうまく扱えば最高なものが生まれる、だからピノが好きだ」と語るマイルス。「ワインは生きていて、日ごとに熟成してピークを迎えるが、その後は徐々に下り坂になる、その味わいが人生と同じで、ワインに惹かれた」と、マイルスの腕に手をかけながら語るマヤ。私のようなワイン好きにとっては、こんな相手にめぐり合い、こんな雰囲気になったなら、キスをして、その後プロポーズしたくなるような最高のラブシーンだ。ところがマイルスは、キスどころか、「どの品種か忘れたが、その品種も捨てがたい」とか語りだす完全なトホホ状態で、アメリカの映画館ならみんなが「オー」と叫んで頭を抱えているのは間違いないだろう。そのほかにも自分の小説の出版が駄目になったことを知り、ワイナリーでワインをがぶ飲みし、大暴れをして、追い出されるシーンなど、情けないシーンには事欠かない。

親友のジャックはかつては人気のTVシリーズにも出演していた、典型的な軟派男、というか獣に近い。アメリカ人にはいつも「アイアムホーニー」と叫んでいるこうした男がたまにいる。頭の中はSEXしかない。だけど憎めないキャラというところか?この超ポジティブ、マイペースの軟派男と、超ネガティブ、駄目男がなぜ親友なのかは最後のほうで分かる。間男をしたところを夫に見つかり、裸で逃げ帰ってきたジャックの、間男をした家に忘れた身分証明書入りの財布をとってきてくれという無謀な要求に、見事に応えるマイルス。二人のかけがえのない友情が、笑いと共に読み取れる感動的なシーンだ。

ヒロインのマヤの美しさ、聡明さ、強さはアメリカ人の理想といえるだろう。大学教授夫人という地位を捨て、しがない英語教師のマイルスを好きになるマヤ。夫と別れた理由が、大きいワインセラーを持ち、うんちくを語る夫が偽者だと気づいたからだという。金にあかせて高いワインを買い求め、高い頭脳でウンチクを語る偽者のワイン好きは日本にも多いだろう。ブランドにこだわらず、本当に味を分かっているワイン好きは少ない。マヤのその言葉に、私のようなワイン・ラヴァーならば一瞬で恋をしてしまうだろう。彼女は本物だ。マイルスはお金はないが、ワインにかけては本物だ。ワインに奥深さを見出し、ワインに人生を委ねようというマヤがマイルスを好きになるのは、理論的にはおかしくはない。

しかし、残念ながら、現実にはこうしたことはまずありえないだろう。ワインを趣味にとどめず、ワインに人生をかける人は少ないだろう。また、情けないマイルスを選び、ワインに関しては偽者でも、成功者である、きれものであろう大学教授を捨てるような人物もなかなかいないだろう。アレクサンダー・ペイン監督も大のワイン好きだということだから、非常によく理解できるが、マヤがマイルスを愛するのは、ワインラヴァーにとっての、そうなってほしいというフェアリー・テールに他ならない。

実際にはあろうはずもない、女性に対する男性の理想を描いた傑作といえるだろう。『サイドウェイ』から得られる教訓は、こんな理想の女性を待ち続けていたら一生独身だということだろうか?

最終更新:2011年7月5日 04時39分

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